透析患者さんって、血圧が急に下がることありますよね。なぜですか?
透析中の血圧低下は、「巫女さんのヤジ」って覚えてるよ
透析中の「巫女さんのヤジ?」
透析中に血圧低下・・・どうする???
透析中の血圧低下は、定義によってまちまちですが、治療中の10-70%に発症するといわれる、最もcommonな症状の一つです。
今後、腎臓内科医・透析専門医を目指す人だけでなく、透析バイトに行く人も、透析中の血圧低下時の鑑別、対応は知っておきたいですよね。
今回は、透析中の血圧低下=透析関連低血圧(IDH:intradialytic hypotension)について、実際の対応も含めてまとめてみました。
腎臓/透析に興味のある研修医・専攻医
透析患者さんを受け持っている内科専攻医
透析バイトに興味がある医師
透析関連低血圧の原因は?
よくある原因としては、以下のものが挙げられます
①水・・・除水速度・ドライウェイト
②心臓
③三重苦・・・貧血・炎症・低栄養
④薬
⑤自律神経障害
⑥その他・・・透析中の食事や、アレルギーなど
そう言われても、あまりイメージが沸かないです。
そもそも三重苦って何のことですか?
最初に:血圧低下した時の初手
とりあえず「生」的なノリで、とりあえずやることをまとめておきますね。
①液温、体位の調整
②除水速度を下げるor止める
③補液や昇圧剤投与も検討
④透析中止も考える(最後の手段)
まず、液温を下げたり、体位の調整(足を上げる)を行います。
これだけでも血圧が改善する方もいます。
それでもだめなら除水を減らす/止めます。
透析室のスタッフはこうした自体に慣れっこなので、だいたい看護師さんや技師さんが液温調節や体位調整をする、あるいは除水を止めてくれてから医師に相談、というパターンが多いです。
補液として生食100-200mlを投与したりすることがあります。
病院によっては10%食塩水など濃い透析液を入れることもありますが、後日、入れた分を除水するのが大変なので、よっぽどでなければオススメしません。
① 水の問題
ざっくりと「水の問題」と定義しましたが、
①除水速度(UFR)が多い
②ドライウェイト(DW)の設定がキビシイ
の2つに分けられます。
どちらも水についてですが、
①は、除水中の速さの設定の問題
②は、除水後のゴールの設定の問題
です。
いっっっちばん大事なところなので、詳しめに書いておきますね。
①除水の速度が速すぎる
①は、除水の速さの問題です。
血液透析をする際は、血管内から血液を取ってきて、それを透析して余計なモノを取り除く(=除質)して、ついでに余分な水も取り除いて(=除水して)返却します。
例えば、だいたい65kgの人の血液の量は1/13、つまり5Lくらいと言われています。
普通の透析患者さんは、3Lくらい除水を行いますが、そうすると血液が半分以下に減ってしまいます。
しかし、そうならないのは、血管外から血管内へ水が入ってくるからです。
これを、プラズマ・リフィリング(plasma refilling)といいます。
プラズマリフィリングが除水速度に追いつかないと、血液量が足りなくなって、血圧が低下してしまいます。
全然ドライウェイトまで達していないのに、血圧が下がってしまっているなら、まずは除水速度が速すぎるのでは?と考えます。
②ドライウェイトがきびしい
②のドライウェイトの問題。
ドライウェイトとは、体の中の水分が適正となる体重のこと。
ドライウェイトが低すぎると、血管外と血管内をあわせた水の合計が、そもそも少ないので、血圧は下がります。
対策
①除水速度が速い場合は、速度を下げます。
原因検索としては、食事量を聴取し、塩分の量と水分の量に留意しましょう。
体重の増えが多いということは、それだけ塩分や水分が多い可能性があります。
消化管出血後のお粥によって水分モリモリになって体重がめちゃ増えてしまっているのは、まさに典型的なパターン。
②のDWについては、適切に設定していきます。
ちなみに、DWのミスマッチの原因として多いのは食事量の変化が多いですので、やはり問診するときは食事量に注意してみましょう。
●もともとと同じDWなのに、なぜか血圧が低い/高い・・・というときは、食事量のチェックはマスト!
もともと食べられていなかった人の食欲が増えたら、筋肉や脂肪量が増えて、DWがきつくなってしまって血圧低下をきたすことがあります。
逆に、食事が減って筋肉や脂肪量が減る=痩せてきてしまうと、気づかないうちにDWが高すぎて余してしまいます。
①除水速度(UFR)が多い →除水速度を落とす。塩分・食事制限を。
②ドライウェイト(DW)の設定がキビシイ →DWを変更、食事チェック
② 心臓の問題
除水量やドライウェイトは問題なさそうなのに血圧が低いときは、心臓の問題を考えましょう。
心臓の問題:
①心機能が低い
②虚血イベント(心筋梗塞)
③不整脈・・・心房細動が多い
④大動脈弁狭窄
透析患者さんは、心血管リスクが非常に高いです。
もともとの心エコーやCAG歴は確認しておきましょう。
心機能が低い患者さんとしては、拡張型心筋症だったり、虚血性心筋症のナレノハテ状態が多いです。
透析中にガクッと下がるというよりは、最初から血圧が低空飛行の方が多いですね。
②の虚血イベントが起きている場合は、
透析中に冠動脈血流が落ちて、一過性に虚血っぽくなることや、そのまま心筋梗塞に至る患者もいます。
十二誘導心電図のチェックをしておくと、後々自分の身を救ってくれます。
③の不整脈については、心房細動の割合が高めです。
特にドライウェイトが厳しめの場合に、透析中の心房細動が起きることが多いイメージですが、ドライウェイトに問題がなくても一定の割合(14%)で起きるみたいです。(Am Heart J 140:886-890, 2000)
対策
急にガタッと血圧低下が起きたときは、まず新規虚血イベントを除外することが大切です。
迷わず、十二誘導心電図をとりましょう。
総合病院にいるなら、心エコーや循環器内科の先生へコンサルトも考えましょう。
透析患者さんの心筋梗塞は、症状が非典型的であることもしばしばあるので、胸痛がなくても除外できません。
③ 三重苦
ここで言う三重苦とは、
①貧血
②炎症
③低栄養
を指します。
なんでこの3つをまとめたの?
急性期病院の重症患者さんによくあるシチュエーションだからだよ。
重症の患者さんでときどき起こるパターンを図にしてみました。
たとえば、肺炎や尿路感染などに伴う敗血症など感染症でICUに入室している患者さん。
炎症がそもそも高いから、血管外に血液が漏れ出やすくなるし、
慢性炎症による貧血で血圧が下がりやすくなります。
また、食事摂取が低下することで低アルブミン血症になります。
これらは総じて、血圧低下の原因となりえます。
対策
①貧血・・・ESAを増やす、鉄動態をみて鉄を投与する
②炎症・・・原疾患の治療
③低栄養・・・増やす(経腸栄養を増やす、内容を変更するなど)
※ただし、貧血については、炎症が高いせいでフェリチン高くて(300ng/mL以上)鉄を補充することも出来なかったり、
栄養については経腸栄養を入れても吸収不良、下痢になるから増やすことも出来なかったり。
原疾患をどうにかしないと、どうしようもないことも多いことも知っておいてください。
④ 薬
薬による血圧低下といえば、もちろん降圧薬!
透析患者さんの高血圧の合併率は74.5%と言われており、降圧薬を飲んでいることが多いです。(日本透析医会雑誌 2016;31:3-9)
何の降圧薬を飲んでいるのか、必ずチェックしましょう。
※ちなみに、血圧低下してるのに、脈拍数が上がっていない・・・となったときは、迷走神経反射だけでなく、β遮断薬のチェックをしましょう。
対策
降圧薬の中止を検討する
⑤ 自律神経障害
自律神経って言われてもパッとイメージがわきにくいかもしれません。
これは、糖尿病性腎症によって透析導入となった患者さんや、長期間、透析をしている患者さんにときどきおられます。
糖尿病の患者さんは、神経障害を起こすことは有名です。
神経障害=糖尿病の合併症、「し・め・じ」の最初の「し」ってやつですね。
※残りの「め」=目、網膜症、「じ」=腎障害
末梢神経障害が起きるだけでなく、自律神経障害も起こすことから、血圧の調整がうまく出来なくなってしまうため、除水によって血圧が下がりやすくなるのです。
軽い糖尿病でガッツリ神経障害になることは少ないですが、特に原疾患が糖尿病性腎症の患者さんは、腎障害を起こすほどに全身の血管が障害されているため、神経障害も起きていることが少なくありません。
また、透析歴が長い患者さんも、血圧低下を引き起こします。
対策
自律神経障害による血圧低下の場合の対策は以下のようになります。
カルテで原疾患、透析歴をチェック
昇圧薬を検討する
神経自体を直すことは出来ないので、内服の昇圧薬であるアメジニウム(リズミック®)やドロキシドパ(ドプス®)、点滴でのエチレフリン(エホチール®)を使って血圧を上げることがあります。
その他
ここまで考えた上でも血圧が低ければ、頻度の高い原因は除外できたと思います。
透析中の食事は、血流が消化管に行ってしまうため低下することがあります。
また、アレルギー(膜や透析液、抗凝固薬のナファモスタット)の可能性はあるので、上記をr/oしてもまだ不明であれば、鑑別に上げましょう。
急性期病院では、病院で採用している膜が違うことで、異なる透析膜を使わざるを得ないことも多いです。
知らないうちにアレルギーが起きていることもあるので注意です。
まとめ
①水・・・除水速度・ドライウェイト
②心臓
③三重苦・・・貧血・炎症・低栄養
④薬
⑤自律神経障害
⑥その他・・・透析中の食事や、アレルギーなど
おまけ:巫女さんのヤジって?
「巫女さんのヤジ」とは、これらの頭文字をとったものです。
み:水
こ:こころ、つまり「心臓」
さん:三重苦
や:薬剤
じ:自律神経障害
これらは、完全オリジナルです。笑
大学受験時代に古文単語のゴロゴなど、ゴロ合わせ系で覚えていた人にはおすすめです・・・(僕はそうでした。)
覚えやすいかどうかはともかく(笑)、一回一通り覚えておくと、役に立つかもです〜
お疲れ様でした!
参考文献
↑透析患者に起きる問題について、シチュエーション別に書いてあり、分かりやすいです。血圧低下についての章もあります。
↑透析患者についてシンプルにまとまっているロングセラーです。透析患者をみる人には必携の本。
その他
・透析患者の血圧管理(透析医療における Current Topics 2015)
・Clin J Am Soc Nephrol 13: 1297–1303, August, 2018
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