腎臓学会のオンデマンド配信、終わっちゃったな。全部は見きれなかったけど、どんな内容があったかな
こんな人のための記事です。
2023年腎臓学会はオンデマンド配信があったこともあり、たくさんの講演を拝聴することができました。
個人的な感覚として、学会は「フェス」に近い雰囲気はあるので結構好きなんですよね。
今回の記事では、自分が視聴できた講演の中で
●面白かった!
●臨床で役に立ちそう!
と感じた内容を、フィギュアとともに書き残しました。
今回は、後半戦として
COVID-19、腹膜透析、AAV、行動医学
に絞ってポイントを上げていきます。
(最後の行動医学は、自分の趣味みたいな感じなので、役に立つかどうかは分かりませんが…笑)
学会に参加できなかった人はもちろん、実際に講演を聞かれた方にとっても復習となるかと思いますので、ぜひ最後までお付き合いください〜!!
引用元の論文も掲載しているので、興味のある方はPubMedで読んでみてくださいね。
※この記事では、おちばの備忘録としてまとめていますので、あくまで実臨床での使用についてはご自身の責任で判断ください!m(_ _)m
COVID-19
1) COVID-19による腎障害は、collapsing glomerulopathyやATIが多い
May RM, et al. A multi-center retrospective cohort study defines the spectrum of kidney pathology in Coronavirus 2019 Disease (COVID-19). Kidney Int. 2021 Dec;100(6):1303-1315. doi: 10.1016/j.kint.2021.07.015. Epub 2021 Aug 3. PMID: 34352311; PMCID: PMC8328528.
COVID-19による腎障害(COVAN:COVID-19 associated nephropathy)は、一般の腎生検群と比べてcollapsingパターン(糸球体係蹄の虚脱)やATI(急性尿細管壊死)が多いとのこと。
また、敗血症のときのAKIのようなイメージが強かったんですが、ポドサイト障害が結構強いため、意外に蛋白尿が出る症例が多いみたいです。
※ただし、2021年の発表なので、一時期のめちゃくちゃ重症化してICU入りまくっていた時期のCOVID-19を色濃く反映していそう。現在のオミクロン株になってから、AKI発症率は変わらないものの重症化はしにくくなったようです。(基礎疾患や高齢患者では相変わらずリスクはある。)
2) 遺伝子(APOL1)変異がある人はCOVANを発症しやすい
May RM, et al. A multi-center retrospective cohort study defines the spectrum of kidney pathology in Coronavirus 2019 Disease (COVID-19). Kidney Int. 2021 Dec;100(6):1303-1315. doi: 10.1016/j.kint.2021.07.015. Epub 2021 Aug 3. PMID: 34352311; PMCID: PMC8328528.
APOL1遺伝子は、もともとトリパノソーマ症というアフリカの疾患や、脂質代謝に関与しています。
この遺伝子変異がある人は、一般的に末期腎不全のリスクがあるのに加えてCOVANを起こしやすいようです。へー。
さらに、APOL1遺伝子変異がある移植患者は、COVID-19を契機に拒絶のような症状がを起こすことがあるとのこと。
将来的にAPOL1遺伝子変異が簡便に検査できるようになったら、臨床でのリスク評価に使えるかもしれませんね。
3) COVID-19ワクチン接種後の肉眼的血尿は、腎機能低下は稀、タンパク尿も一過性
日本腎臓学会 COVID-19ワクチンと肉眼的血尿の関連についての調査
〜アンケート結果まとめ〜
COVID-19ワクチンは、血尿・IgA腎症をしばしば発症・再燃しますが、その予後は比較的良好であるとのことでした。
最新のデータでは腎生検したら全例IgA腎症(IgA血管炎)だったとのことで、早期に発見できたIgA腎症を診ている可能性があるかもしれないようです。
また、ワクチン接種後の発症率が一番高いのは2回目とのこと。
なんなら、肉眼的血尿でIgA腎症を発見できたら経過をキチンとフォローできるので予後が良くなるなんてことも言われているようです。
COVID-19ワクチン、将来的に何回目接種までするのか分かりませんが、今後も外来で血尿で紹介されたときにキチンと対応できるようになりたいものです。
ANCA関連血管炎(AAV)
4) アバコパンがアツい!(ただし、最初からステロイドフリーは現実的にまだ難しそう)
Jayne DRW, Merkel PA, Schall TJ, Bekker P; ADVOCATE Study Group. Avacopan for the Treatment of ANCA-Associated Vasculitis. N Engl J Med. 2021 Feb 18;384(7):599-609. doi: 10.1056/NEJMoa2023386. PMID: 33596356.
AAVについてのシンポジウムでは、いま話題のアバコパン(C5a受容体拮抗薬)で持ち切りでした。
アバコパンについて、(たぶん)最も有名な臨床試験であるADVOCATE試験(Jayne DRW et al. NEJM 2021)では、標準治療(RTXまたはIVCYを併用)する中で、なんとステロイドを使用せず(あるいはステロイド量を少ない状態で)、副作用少なくAAVの寛解率がステロイド群と比べて非劣性という結果でした。
AAVはただでさえ高齢者が多いので、ステロイド治療による副作用が起きやすいですよね💦
そんな中で、免疫抑制剤にアバコパンを併用すれば、ステロイドなしで治療できるかも!?と期待させるような試験でした。すご!
ただし、この試験、limitationもあります。
それは、①アバコパン群にもある程度ステロイドを使用されてしまっていること、②コントロール群では維持療法がされていない(→維持療法がないから、コントロール群では再燃率が高い)という2点です。
ということで、現実的には、ガンガン単剤のみで治療する!!ってよりは、再燃した症例にステロイド増量ではなくアバコパンを投与してみる、くらいが今のところ妥当かも、という話でした。
5) 低用量ステロイドでのレジメンが今後流行りそう
Walsh M, Merkel PA, Peh CA, Szpirt WM, Puéchal X, Fujimoto S, Hawley CM, Khalidi N, Floßmann O, Wald R, Girard LP, Levin A, Gregorini G, Harper L, Clark WF, Pagnoux C, Specks U, Smyth L, Tesar V, Ito-Ihara T, de Zoysa JR, Szczeklik W, Flores-Suárez LF, Carette S, Guillevin L, Pusey CD, Casian AL, Brezina B, Mazzetti A, McAlear CA, Broadhurst E, Reidlinger D, Mehta S, Ives N, Jayne DRW; PEXIVAS Investigators. Plasma Exchange and Glucocorticoids in Severe ANCA-Associated Vasculitis. N Engl J Med. 2020 Feb 13;382(7):622-631. doi: 10.1056/NEJMoa1803537. PMID: 32053298; PMCID: PMC7325726.(PEXIVAS試験)
さきほどの章でもお伝えした通り、AAV(だけでなく、あらゆる自己免疫疾患)の治療は、ステロイドの副作用をいかに減らすかが課題でした。
ただし、AAVは重症化しやすいし再燃リスクも高いので、中途半端な量で治療をするとちゃんと治療しきれない可能性があります。
そのため、「1mg/kg投与後、漸減」というレジメンが一般的でした。
ところが、最近はAAVの治療のステロイドのスタート量を減らす「減量レジメン」なるものが様々な形で雑誌を賑わしています。
代表的なものとしては、
PEXIVAS試験、LoVas試験、そして、さきほど取り上げたADVOCATE試験などが有名です。
Furuta S, Nakagomi D, Kobayashi Y, Hiraguri M, Sugiyama T, Amano K, Umibe T, Kono H, Kurasawa K, Kita Y, Matsumura R, Kaneko Y, Ninagawa K, Hiromura K, Kagami SI, Inaba Y, Hanaoka H, Ikeda K, Nakajima H; LoVAS Collaborators. Effect of Reduced-Dose vs High-Dose Glucocorticoids Added to Rituximab on Remission Induction in ANCA-Associated Vasculitis: A Randomized Clinical Trial. JAMA. 2021 Jun 1;325(21):2178-2187. doi: 10.1001/jama.2021.6615. PMID: 34061144; PMCID: PMC8170547.(LoVas試験)
LoVas試験は、日本での臨床試験です。
6ヶ月後の寛解達成率は、標準的な「1mg/kg投与後、漸減」のレジメンと比べて「0.5mg/kg投与開始」のlow doseレジメンでも寛解率は非劣性という結果でした。
しかも、low doseレジメンは開始量だけでなく、減量のスピードも通常より早いものでした。
こういった試験の結果を背景に、AAVガイドライン2023でも一概にステロイド1mg/kgではなく、開始量はより少なく、かつ減量スピードも早いレジメンも選択肢となりうる記載もされていました。
AAVの治療について詳細が知りたい方は、ぜひガイドラインを購入しておきましょう。(売り切れてAmazonでしばらく買えない時期もありましたので、買える内に買っておくのがおすすめです!)
腹膜透析
6) 夜間の自動腹膜透析は、無呼吸症候群に効く
Tang SC, Lam B, Lai AS, Pang CB, Tso WK, Khong PL, Ip MS, Lai KN. Improvement in sleep apnea during nocturnal peritoneal dialysis is associated with reduced airway congestion and better uremic clearance. Clin J Am Soc Nephrol. 2009 Feb;4(2):410-8. doi: 10.2215/CJN.03520708. Epub 2008 Dec 31. PMID: 19118118; PMCID: PMC2637593.
夜間の自動腹膜透析は、AHIスコアを改善する、という研究があるようです。
なぜなら、夜間の体液除去が上気道浮腫を軽減し、かつ睡眠中の体液コントロールや尿毒素除去がなされることで中枢性の無呼吸の頻度が軽減するから、とのことでした。
ま、それだけを理由にCAPDではなくAPDを選ぶことはないとは思いますが、一つのメリットとして興味深いです。
7) HD1回のリン除去量は、PDの約3日分
これは演者の先生が作られたグラフだったのでupできません…(すみません)
PDとHDの併用療法は、体液過剰やMBDコントロール困難の患者の治療の選択肢の1つですが、具体的にどのくらい違うか、というデータが学会で示されてました。
ちなみに、HDは1回の透析で1000mg程度除去できる一方で、PD1回(8L)は360mg程度と、1/3程度しか除去できません。(毎日やるのでギリギリ一緒くらい、という感じでしょうか。)
ちなみに、リン吸着薬の中で効果が高いとされる炭酸ランタンでも1gあたり90mg程度しか除去できないとのことでしたので、いかにHDがP除去効率が良いのかがしれますね。
8) HD+PDの併用療法は生命予後が良い(かも)
Maruyama Y, Yokoyama K, Higuchi C, Sanaka T, Tanaka Y, Sakai K, Kanno Y, Ryuzaki M, Sakurada T, Hosoya T, Nakayama M; EARTH (Evaluation of the Adequacy of Renal replacement THerapy) study group. Clinical feasibility of transfer to combined therapy with peritoneal dialysis and hemodialysis for patients on peritoneal dialysis: A prospective multicenter study in Japan. Ther Apher Dial. 2022 Dec;26(6):1226-1234. doi: 10.1111/1744-9987.13796. Epub 2022 Jan 18. PMID: 35000280.
観察研究ではありますが、PDとHDの併用群は、直接PDからHDへ移行した群よりも生命予後が良かった、とのことでした。
volume調整ができなくなったときなどで、やむを得ずで選択肢となる併用療法ですが、意外と良い選択肢になるのかも。
なかなか腹膜透析はエビデンスが少ない分野ですが、今後もこういった知見が増えてきてPD治療の選択肢や新たな考え方が出てきたら嬉しいですね。
行動医学
9) CKD患者に対する「ナッジ」により受診行動が改善する
Fukuma S, Sasaki S, Taguri M, Goto R, Misumi T, Saigusa Y, Tsugawa Y. Effect of Nudge-Based Intervention on Adherence to Physician Visit Recommendations and Early Health Outcomes among Individuals Identified with Chronic Kidney Disease in Screens. J Am Soc Nephrol. 2022 Jan;33(1):175-185. doi: 10.1681/ASN.2021050664. Epub 2021 Dec 13. PMID: 34903568; PMCID: PMC8763194.
突然ですが、ナッジという言葉は知っていますか?
僕はこの学会で初めて知りました。
ナッジ(nudge)とは、「軽くつつく」という意味の動詞です。
患者さんとのコミュニケーションの際に、軽くつつく、つまり「ちょっとした情報提供をおこなう」ことで、どのくらい受診をきちんとできるようになるか、という論文です。
ナッジ群では、何もしない群と比べて約4%も受診行動が改善したようです。
外来でも、あまりガミガミ言うより、ちょっと〇〇してみても良いかもね、くらいの声掛けをしてみるのが案外効果が高かったりする気がします。
もちろん、言うたら来る人増えるのは当たり前やろっていう意見もあると思いますが、こういう事実をきちんと論文で発信することにとても意義があるように思います。
どれだけ知識がある医師も、手術がうまい医師でも、患者さんが来てくれなければ元も子もないですもんね・・・
10)行動医学を用いて、特定の行動促進(禁煙など)の成功確率が上がる
Barth J, Jacob T, Daha I, Critchley JA. Psychosocial interventions for smoking cessation in patients with coronary heart disease. Cochrane Database Syst Rev. 2015 Jul 6;(7):CD006886. doi: 10.1002/14651858.CD006886.pub2. PMID: 26148115.
「受診」という行動以外にも、行動医学が役に立つ場面はたくさんあります。
その一つが、禁煙。
行動科学的なアプローチとして、短期的な確実な結果が出るようにシステムを作ることで、1年後に禁煙という行動に踏み切れている人が20%以上増える、といった内容でした。
これって一見地味ですが、確実に患者さんの予後を改善していますよね。
行動医学の勉強は患者さんの生活習慣に左右されがちな慢性腎臓病の管理において、武器になりそうな知識だと感じました!
まとめ
腎臓学会で自分の興味があったこと、大切だと感じたことをまとめてみました。
学会は、話を聞くだけで満足してしまっていざ実際の現場で使おうと思ったときには「アレ、どうだったっけ…」となることが多いと思います。
みなさんが学会の勉強内容を振り返るきっかけになれば幸いです(^^)
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