【気になる論文】腹膜透析患者へのARNI(エンレスト)の効果はあるの?

腹膜透析患者さん(特に体格のいい方)って、体液コントロールが難しいことが多く、溢水、心不全になりやすいですよね。

最近出た薬であるARNI(エンレスト®)は慢性心不全に適応があり使用されています。

DWまで持っていっても(そもそもそこまで持っていくのが難しいのですが)HFpEF状態の腹膜透析患者へのARNIは効果があるのでしょうか。

目次

今日の論文

Effects of Sacubitril-Valsartan in Heart Failure With Preserved Ejection Fraction in Patients Undergoing Peritoneal Dialysis(Front Med (Lausanne). 2021 Jun 21;8:657067. PMID: 34235161)

■論文を一言でまとめると・・・

腹膜透析中でHFpEFの患者21人において、サクビトリル-バルサルタン(50-100mg×2回/日)を3-12ヶ月間使用したところ、心不全症状が改善した。

■PICOとlimitation

P:NYHA)II~IV度心不全、駆出率50%以上、N末端プロB型ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)高値の3ヶ月間腹膜透析中の末期腎臓病(ESKD)患者 21名

3-12ヶ月間のフォローアップ

I サクビトリル-バルサルタン(通常50〜100mg×2回/日)服用

C ベースラインと比較して

O

NT-proBNP値[9769.0(3093.5-21941.0) vs 3034.0(1493.2-6503.0)、P = 0.002]、

心拍数[80.0(74.5-90.5) vs 75.0(70.3-87.0), P = 0.031]

心不全の徴候および症状(21/21 vs 15/21, P = 0.021)は改善

NYHA 分類および E/e’ 比は 3-12 か月後のフォローアップで改善

明らかな有害事象なし

limitation

①観察研究であり、少人数、非盲検、非前向き、単施設試験であり、追跡期間が短い

②平均24時間尿量が700mlと腎機能が残存し、すでに3ヵ月以上CAPDを受けていて、かつ、過量投与がないPD患者のみが対象であること。

背景・基本知識

・ARNIは、エナラプリルと比較して、HFrEF患者の心血管死および全死亡、入院率(40%以下)を減少させるとされている(N Engl J Med. (2014) 371:993–1004.)。

PARAMOUNT-HF試験では、NYHAクラスII-III、左室EF45%以上のHFpEF患者301名の36週間の追跡調査において、ベースラインから12週目までのNT-proBNP、36週目の左房径はバルサルタンを上回る有意な減少し、NYHA分類も改善した。(Lancet. 2012 Oct 20;380(9851):1387-95.)

・最近、HFrEFを有する進行したCKD患者に対するサクビトリル-バルサルタンが、あらゆる原因による死亡、心血管死、突然死、再入院の発生率の低下させることが報告されている。(J Cardiol. 2019 Oct;74(4):372-380.)

・HFpEFは、HFmrEF、HFrEFと比べてCKD患者で多いことが知られている(Eur J Heart Fail. (2017) 19:1606–14.)。また、PD患者によく見られ(CKDの心不全患者のうち最大で55%)、心不全のないPD患者と比べて死亡率・心血管予後の悪化リスクが増加すると知られている。(Am J Kidney Dis. 2013;61:975–83. )

・今回は、HFpEFの腹膜透析患者に対してのARNIの効果を調べた。

方法

・NYHAII~IVの心不全で駆出率が50%以上、NT-proBNPが高値で、3ヵ月間以上PDを受けている患者をARNIの投与群に割り付けた。

・サクビトリル-バルサルタン(通常50〜100mg×2回/日)服用前後の臨床・生化学的パラメータの変化を調べ、安全性も評価した。

結果

・21名の患者が登録された。

・それぞれの患者のベースラインと比較して、

⭕心拍数[80.0(74.5-90.5) vs 75.0(70.3-87.0), P = 0.031]

⭕NT-proBNP値[9769.0(3093.5-21941.0) vs 3034.0(1493.2-6503.0)、P = 0.002]

が、ARNIの開始後に減少が認められた。

・さらに、心不全の徴候、症状が減少した(p.25)。

・心不全の徴候および症状(21/21 vs 15/21, P = 0.021)は明らかに緩和され、NYHA分類およびE/e’比は3〜12ヶ月のフォローアップ後に顕著な改善傾向を示した。

・また、いずれの患者も薬物有害事象を示さなかった。

結論

PD患者へのARNIはHFpEF合併PD患者へ有効かつ安全。

論文を読んで

・あくまで単施設の、ベースラインと比較しての研究です。ランダム化もされていないですし、人数も少ないです。。。使用による統計学的な有意差(改善)は出ていません。

・本文では明らかな溢水患者は除外したそうですが、自尿のある患者なら他の利尿薬を増量することや食事調整でDWを下げることができれば、心拡大や心不全徴候はマシになるので、ARNIだけでそこまで良くなるかというと、微妙かもしれないです・・・!

・ただ、本報告を参考にHFpEFのあるPD患者へARB→ARNI変更を導入してみても悪いことはない気がします。値段がすこし高いけど。

・切り替えのときの注意点としては、血管浮腫の予防のため、ACE-Iなら36時間空けるようにしましょう。

・また、他に知っておきたいこととしては、ARNI導入後はBNPが高くなってしまうため評価できなくなることです。これについての対処法としては、本報告のようにBNPの代わりにNT-proBNPを使うことこれならネプリライシンの代謝経路に関係ないので、心不全の評価に使ってOKです。

まとめ

HFpEF合併のPD患者には、ARNI使ってみてもいいかもしれません。

・関連記事です

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

アラサーの男性医師。内科専門医/透析専門医/腎臓専門医。
腎臓内科医として市中病院で勤務しつつ、フルタイム妻と一緒に実家遠方子育て中。(育児休業後)
忙し過ぎる若手医師向けに、医師のキャリア・専門医試験/レポート対策・仕事のコツ・医学の勉強などお役立ち情報を発信しています。
医師として頑張りたい、けれど家庭やプライベートも同じくらい大切にしたい!
そんな人の力になれたら嬉しいです。
趣味は音楽、読書、公園巡り。

コメント

コメントする

目次