医局人事で今年も遠い病院に異動になった。。。そろそろ家庭と仕事のバランスを取りたいな・・・。
大学院を出ないと、医局の外で働くのは難しいって教授から言われたわ…学位を取るの大変だなあ
こんな人のための記事です。
医局は、
・人間関係やスキルを得やすい
・将来のキャリアがわかりやすい
・食いっぱぐれることがまずない。
といったメリットがある一方、
・労働環境を改善させにくい
・給料が上がりにくい
・家庭と仕事のバランスが取りにくい
などのデメリットがあります。(※医局によって多少の差はあります)
僕は、医局をやめましたが、医局にいる間は、「医局をやめる」という選択を取ろうと思うまでかなり時間がかかりましたし、心理的負担がとても大きいと感じました。
それらを経験したうえで、先日こんな本を読みました。
●「行動経済学が最強の学問である」
行動経済学とは、いわば経済と関連する心理学のことを指します。
ビジネスパーソン向けの1冊ですが、医局について考えるうえで、かなり参考になることが多かったです。
今回の記事では、医局はなぜやめにくいのか?という、ある意味当たり前な問題について、意外と気づきにくい心理学的な側面から考えてみました。
キャリアについて考えるヒントになれば幸いです。
行動経済学的に、医局をやめにくい理由5選
①プロスペクト理論(確実性効果と損失回避)
1つめは
確実性効果と損失回避
です。
「は?損失回避?なにそれ?」と思われた方、とっても簡単なので安心してください。
プロスペクト理論とは、ざっくり言うならば
「同じ幅なら、得するより損するほうが大きく感じる」
というものです。
※プロスペクト理論は、カーネマンとトベルスキーという人が提唱した、行動経済学の代表とも言える理論です。
医局にいると、仕事内容はともかく、確実に仕事があります。
また、大きめの病院にいることが多いのでスキル・人脈が得やすいです。
一方で、医局をやめると、給料や時間、新たなスキルが得られるチャンスがありますが、医局に属していたときのスキルや人脈などは失ってしまいます。
こういった心理状況のとき、同じ程度の利益を得られるとしても、今持っているものを失う(損失)ほうが、より大きいと感じやすいんです。
これまで持っていたものを失いたくないと思ってしまうのが人の心理なんですね。
「のがした魚は大きい」って言うもんね。
②現状維持バイアス
2つめは
現状維持バイアス
です。
これは、「いまのままで大丈夫だと思う」心理のことを指します。
大学によって様々ですが、医局は「医局独特のやりかた」というものを持っていることが多いです。
「これさえ知っておけば大丈夫!」という教育を受けます。
しかし、「医学知識の賞味期限は5年」と言われているように、医学の知識自体も一度頑張れば未来永劫安心というわけではありません。
そもそも医師に求められる技能や知識も今後変わってくるかもしれません。
「これだけやってきたから、今のままで大丈夫」という保証はどこにもないのです。
現代は、VUCAの時代と言われます。
※VUCA=Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取ったもの。
要するに、時代の変化が激しいってことです。
「医局にさえ入っていれば、今のままでも大丈夫」という心理状況は、逆に危ない可能性すらあります。
③現在バイアス
3つめは、
現在バイアス
です。
②の現状維持バイアスと似た言葉ですが、これは
「とりあえず後回しにする」
という心理を指します。
医局のような、安定した環境は、心理的に楽です。
これまで長い歴史の中で、人類が生き残るためには、安定した環境から無防備に出ていくほうが不利でしたから、当然っちゃ当然の心理ですね。
逆に、医局の外に出ることは、考えなくてはいけないことが増えます。
・今後どんなスキルを得たいのか
・働き口に困らないようにどう対策するか
・新しい人間関係をどう確保するか
・知識をどうやってアップデートするか など…
こういった心理的な負荷が多い選択肢を、人は選びにくいです。
めんどくさいし、目の前のことで忙しいから、将来のキャリアのことは後で考えよーって思っちゃうなあ
④情報オーバーロード(選択オーバーロード)
4つめは、
情報オーバーロード
です。
これは、情報や選択肢が多すぎると、かえって1つを選べなくなるという現象を指します。
医局をやめて転職しようと思って自分でいろいろブログを漁ったり調べたりする中で、いろんな選択肢があって悩みますよね
透析・腎臓専門医であれば、
・地域の中小規模の病院で働く
・透析クリニックで働く
・別の医局に入る
・転科して総合内科的に働く
・訪問診療で働く
・企業で医師として働く
などなど、選択肢がいっぱいあって考えるのが大変です。
また、就職先になるかもしれない病院も、地域によっては大量にあります。
こういった多すぎる選択肢が、かえって「めんどくさいから今はやっぱり医局に残っておこう」という感情を引き起こしてしまいます。
医局にいれば、職場を自動的に決めてくれるから、自分で職場を考えなくても済むもんね…
⑤ナッジ(デフォルト設定)
医師のキャリアは、医局をに入る時点で、一定のデフォルト設定がされています。
具体的には
専攻医の間は色んな病院へ転々として修行(+症例集め)
→専攻医後半〜専門医になった頃に大学院に入る。
→大学院を卒業したら市中病院で長めに働くor大学で残る
→市中病院のトップになるor 大学で教官や教授を目指す
こういう風に、デフォルト設定されていると、人はそれ以外へ進もうとするのがめんどくさくなってそのままいることが多い。
こういう風に、周りから強要はされないものの、「医局入ったらこうするもんだよね」という風に後押しされていることを、心理学的に「ナッジ」(=nudge)といいます。
※ナッジとは、軽くつつく、行動をそっと後押しするという意味。ネットフリックスなどのサブスクが自動更新されるシステムもナッジの一つで、利用回数が少なくても解約しないで何ヶ月も過ごしてしまうのが代表例です。
実際には、医局は本来「医局員ひとりひとりが求めるスキルを提供する場所」のはずです。
御礼奉公とか、義理人情とかで「利用させられる」のではなく、自分が得たいスキルやライフステージによって「利用する」 場所と考えたほうがよいでしょう。
でも、こういったデフォルト設定がされている以上、そのルートを外れるのに心理的な抵抗を持ってしまうようにできているんです。
うまくできているシステムだなあ…
心理学を知った上で、できる対策3選
とりあえず、心理学的に医局ってすごく辞めづらい場所なんだってことが分かったとして、具体的にどうすればいいの?
医局に残る人が多い心理学的な側面を知った上で、対策は3つあります。
対策①医局をやめる損失と利得を冷静に比較してみる
まず、大事なのは医局をやめる損失(デメリット)と利得(メリット)をフラットに考えてみることです。
上述した「プロスペクト理論」にあるように、損失は利得より過度に大きく評価されがちです。
また、デフォルト設定されているキャリアパスを外れることは、すごく抵抗があると思います。
「医局をやめると食いっぱぐれてしまうのでは?」「専門医だけでなく、指導医や学位まで取らないと一人前の医者とは言えないのでは?」と、怖くなってしまうかもしれません。
しかし、(専門医はともかく)実際に求人情報などを見てみても、指導医や学位がないと働けないという職場はかなり少数派です。
医局に属して忙しく働くことによって、
・若い時期に家族や友人と旅行に行く時間
・子どもと一緒にじっくり遊んだり成長を見守る時間
・自分の趣味を楽しむ時間
などを失ってしまっているかもしれません。
一度、これらを冷静に天秤にかけてみてもよいでしょう。
対策② とりあえず「いま」行動を開始する
現状維持バイアスや現在バイアスが働いてしまう以上、「忙しいから」と将来のキャリアのことを後回しにしがちです。
しかし、気づいたら時間はあっという間に過ぎてしまいます。
知り合いで「医局をやめるという判断をもっと早くにしておけばよかった」と言う先生も少なくありません。
医局という働き方が自分にあっているかどうか、「いま」考えて、行動を開始してみるのがよいと思います。
具体的には、
①「じぶんの幸せを感じる理想の働き方」を考える
②そういった働き方ができる職場に、いつどのタイミングで移るか考える
③そのために必要な資格や免許を考える
を、考えてみましょう。
人によって、「学位までは欲しいなあ」という人もいるでしょうし、「専門医さえあればいいかな」という人もいるでしょう。
決まったものはないと思うので、じっくり考えるのがよいと思います。
自分のキャリアや価値観を考えておくのは早ければ早いほうがいいです!
対策③ 早めに情報収集を開始する
どのタイミングで医局を辞めるかを考え始めた段階で、同時並行で情報収集を始めておきましょう。
医局を辞めることを考えた場合に、どんな職場があるのか、どんな働き方がよいのかを一人で考える作業は大変です。
自分の希望に合う職場がどこか、考えるのも大変ですし、ネットでの情報も多すぎて情報オーバーロードに陥ってしまう可能性があります。
そんな場合は、転職サイトに登録するのが手っ取り早いです。
いわば医療転職のプロといえるエージェントを使って情報を絞ってもらう作業を任せるのは有効な手段です。
転職活動を早めに始めておき、情報を集めておくことで、「相場よりも良い条件の職場がある」「自分のやりたいことに近い職場がある」などの転職先をすぐに見つけられるようになるはずです。
「転職サイトこそ、たくさんあって選ぶのが大変だよ!」
という人に一つだけ絞ってオススメするなら「医師転職ドットコム
・30000件を超える求人案件がある
・営業拠点が全国に7ヶ所あり、扱っているエリアが広い
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一度登録しておけば、求人情報を送ってくれたり、相談に乗ってくれたりするので安心です。
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おすすめサイト | 特徴 |
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【リクルートドクターズキャリア】 | 希望する働き方や目的をきちんとヒアリングし、求人の傾向や相場などを踏まえて転職先をオススメしてくれる。 |
まとめ:心理学を知った上で、自分の幸せな働き方をかんがえよう
「行動経済学」というちょっとマニアックな切り口で、医局について考えてまとめてみました。
このブログで繰り返しお伝えしていますが、僕は医局自体が悪いものと思ってはいません。
医局は、スキルや経験、人間関係を築くのに最適な環境です。専門医の症例も集まりやすいですし、優秀な先生から学べる機会も多いです。
しかし、繰り返す転居による金銭的・時間的負担、時間外勤務や当直などによる時間的負担があり、家庭(結婚・出産後・育児)や個人(やりたいことがある、健康、介護など)など各自の事情については配慮されることは難しいことがしばしばあります。
こういったメリットやデメリットを考えたうえでどう活用して、将来のキャリアに活かしていくか、選択をしていくのが大切だと思っています。
自分の必要としているスキルや家庭環境を考慮してキャリアを考えていくヒントになれば幸いです。
みなさんが理想の職場で働けるよう、応援しています!
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