・高齢の慢性腎臓病の患者さんは急増しており、認知症を合併されている方も少なくないです。
・認知症の合併している患者さんには、ドネペジル(アリセプト)、ガランタミン(レミニール)、リバスチグミン(イクセロン、リバスタッチ)など、コリンエステラーゼ阻害薬が投与されています。
・今回の記事では、これらの薬がひょっとすると腎機能低下をおさえる(腎保護作用がある)かもしれないという報告の論文を紹介します。
今日の論文
Association between cholinesterase inhibitors and kidney function decline in patients with Alzheimer’s dementia. Kidney Int. 2022 Oct 28:S0085-2538(22)00844-4.(PMID: 36341731.)
アルツハイマー型認知症の患者にコリンエステラーゼ阻害薬を約3年間投与したところ、CKD進行のリスクを低くし、死亡リスクを下げた。
P:新たにADと診断された患者11898人
I
ADの診断後90日以内にコリンエステラーゼ阻害薬(以下ChEI:ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミンのどれか)の投与開始
C コリンエステラーゼ阻害薬非使用
O
・中央値3年間のChEIの使用はCKD進行(eGFR30%以上の低下)のリスクを18%低くした。
・全死亡リスクを21%低くした。
limitation
①観察研究であり、少人数。未知の交絡因子があるかも
②intention-to-treatのデザインに従ったが、自己中断している患者がいたかも
③体重変化に関する情報がない
背景・基本知識
・慢性炎症はCKDや高血圧などさまざまな慢性疾患の原因となるが、最近はコリン作動性抗炎症経路(CAP)が炎症活性応答の調節する迷走神経回路として注目されている。
・CAPの活性化は、線維化や炎症の抑制により腎保護作用を示す可能性があることは動物実験で示されている。(Front Pharmacol. 2021;12:593682. )
・観察研究ではあるが、AD患者におけるChEIの使用は、心筋梗塞、脳卒中、死亡のリスクの低下と関連している。(Alzheimers Dement. 2018;14:944–951.、Eur Heart J. 2013;34:2585–2591、BMC Neurol. 2014;14:173.)
・今回の論文では、実際にChEIが腎機能低下にどう関連しているか調べてみた。
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■コリンエステラーゼ阻害薬(ChEI)の基本知識
・コリンエステラーゼ阻害薬ごとで効果に大きな差はない。
・レビー小体型認知症ではリバスチグミンが効果高い。
・前頭側頭型認知症は、ChEIは効果がないし、易怒性を引き起こす可能性あるため使ってはいけない。
・NMDA受容体拮抗薬のメマンチン(メマリー)は、BPSDがみられる重度のアルツハイマー型認知症患者に特に効果がある。ChEIとの併用可能。
・ドネペジル、リバスチグミンは腎機能での容量調整はいらないが、ガランタミン(レミニール)は減量が必要。ちなみに、メマンチンもCCr<30では減量が必要。(参照元のページ)
・有害事象は①消化器症状(嘔吐下痢)が多い。②徐脈性不整脈も注意。リパスチグミンは比較的、消化器症状が少ないよう。
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方法
・ITT試験
・診断後90日以内にコリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミンのどれか)の投与開始
・平均年齢は80歳(64%が女性)
・平均eGFRは68ml/min/1.73m2
当たり前ですが、高齢者が多いです。CKDG4以下の人もいますが、ほとんどはCKDG3以上ですね。
結果
・中央値3年間の追跡
・非使用と比較して、ChEIの使用はCKD進行のリスクを18%低くし(1,231イベント、調整ハザード比0.82、95%信頼区間0.71-0.96)、死亡リスクを21%低くした(0.79、0.72-0.86)。
結果は、サブグループ、ChEIサブクラス、競合リスクを考慮した後でも一貫していた。
論文を読んで
・前提として、観察研究なので、エビデンスとしては強くないかと思います。
・AF,徐脈のある患者には使いづらい薬なので、βブロッカーを使っていて徐脈ぎみだったり、AFの合併している患者には要注意です。
・eGFR<30の患者さんは各群で5人くらいしかいないので、CKDG4-5の患者さんでどこまで効果があるかは分からないのが残念です。今後の研究に期待。
・交感神経、副交感神経のバランスを整えるってことは、βブロッカーのマイルドなバージョンみたいなイメージでしょうか。
・ちなみに、EMPA-REG OUTCOMEでエンパグリフロジン群ではeGFRが0.19 ± 0.11ml/min/年、プラセボ群では 1.67 ± 0.13ml/min/年に減少し、観察期間の中央値が 3.1 年で39%の腎臓有害事象リスクが低下していました。(N Engl J Med. 2016; 375: 323-334)
・本試験ではeGFRが非使用者で1.39ml/min/年の減少に対し、ChEI群の0.12ml/min/年の平均差だったことを考えると、だいぶ腎保護作用が強い印象です。
・SGLT2阻害薬みたいに、いつしかCKDに適応となる日がくると良いですね。
・ひょっとして、高齢者が消化器症状が出て食べられなくなった結果、Crが改善しているなんてことは・・・?(GLP-1のHbA1cみたいな感じ?)と思ったりしなくもないですが、そこまで強く消化器症状が出るイメージもないです。
・論文を通して、認知症について勉強するいい機会になりました。
まとめ
コリンエステラーゼ阻害薬には、腎保護作用があるかもしれません。今後の期待。
■オススメの本
・精神診療プラチナマニュアル 第2版
精神科に進まない人でも、必ず持っておきたい1冊です。
精神科薬の基本が載っています。研修医であれば精神科ローテの前に買っておくと役に立ちます。
専攻医以降でも、時々知らない精神科薬が出てきたら参照すると勉強になります。
・認知症世界の歩き方
認知症患者にとってこの世界がどのように見えているかが書かれています。
一般向けの本で分かりやすいです。
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