英語論文読めるのってかっこいいけど、コスパが悪い気がするんだよなあ・・・
最近はわかりやすい医学書がいっぱいあるけど、ぶっちゃけ原著論文って読む必要あるのかな?
こんな人のための記事です。
先日、「英語論文の読み方を教えてほしいです」とX(旧Twitter)でDMをいただきました。
医師の間では、英語論文を読んだほうがいいっていうのは、「早寝早起きが健康的」「野菜は体に良い」っていうレベルで常識とされています。
SNSでも、NEJMなど有名な雑誌の論文やreviewのポストには いっぱい「いいね」がついたりRTされてます。
とはいえ、英語論文を読むのは大変です。DeepLやChatGPTなど翻訳ツールの発達でその解読のハードルは下がりつつあるものの、よほどのモチベーションがないと読み始めるのは辛いですよね。
正直な話、ぼくも読むの辛いです。
ですが、おちばは考えてみました。
「こんなに読むのが辛い論文も、ほぼ毎日のように読んでいたら、逆に読むのが楽しくなるかも?読み方とかもわかってくるかも?」
そこで、1ヶ月間ほぼ毎日(平日のみ)1日1個読むという試みをしてみましたの。
具体的には、
「1ヶ月間、1日1個、英語医学論文(原著)を読む」
というのを実行してみましたので、ご報告します。
論文を読む前に
医学論文を読むにあたって、まずは論文の読み方についての背景知識を身につける必要があると考えました。
とりあえず知識がなさすぎるので本やネット上の記事を片っ端から読んでみました。
論文の読み方についてのおすすめ本
①僕らはまだ、臨床研究論文の本当の読み方を知らない。←一番オススメ!!!!
②Journal clubをやってみよう
③必ず読めるようになる医学英語論文
④論文を正しく読むのはけっこう難しい
など、有名どころの本をざっと読んでみました。
実際に(ほぼ)毎日1ヶ月読んでみた
論文の読み方をある程度イメージした後、実際に論文を読んでいきました。
読む論文の選び方
読んだ論文の選び方としては、
●比較的新しい
●メジャーな雑誌(NEJMなど)に載っている
●自分の専門領域(腎臓分野)に関連している
●ガイドラインやUpToDate、Web講演会で引用されている
●SNSで話題になっている
などを、集めました。
マニアックな論文ばっかり読んでも汎用性に乏しいですし、最新のキラキラ論文もその正確性や信頼性の評価・判断が自分では難しいので、ある程度有名でみんな知ってる「コレは読んでおかねば!」というオールスター的な論文を中心に選んでいきました。
他の専門医と話すうえで、「共通言語」みたいな、知っておきたい論文をピックアップして読んでいきました。
こんな感じで、読みたい論文をかたっぱしからメモして一覧にしていきます。
論文を読んでまとめる
次に、読んだ論文を、片っ端からまとめていきます。
忘れっぽい自分は、「Notion」というツールを使ってまとめてみました。
Notionに論文をひたすらまとめていきます。
ただなんとなく読んでまとめるとなると、感想文みたいに抽象的なものになるので、
●PICO
●Outcomeのまとめ
●ジャンル
●研究デザイン
などを項目化してまとめました。
こんな感じです。
※このまとめ方は、こちらのサイトを参考にしてます。
実際にやってみて気づきましたが、目を通すポイントをはっきりさせると、だんだん効率が上がるので、初心者は読み方を定型化するのが良いと感じます。
Notionなど検索性のあるツールにまとめておくことで、後で内容を見直すことがしやすいです。(あとで参考にするときに、どこに行ったかわからなくなるので…!)
上級医の先生の中には、まとめたりしなくても流し読みすることで内容を頭にいれることができる人もいますし、後述するPaperpileを使用している人います。人によってまとめ方は様々なので、自分にあったやり方を模索していきましょう!
原著論文を読んでわかった3つのこと
そんなこんなで原著論文を読んで1ヶ月程度、Notionにまとめまくるという経験をしたところ、いろいろな気づきがありました。
①intro、discussionを読むだけで背景知識が身につく
1つめは、「intro、discussionを読むだけで背景知識が身につく」です。
introは、背景情報をまとめています。
そのため、「いまどこまで分かっていて何が分かっていないか?」という、いわゆるknowledge gapというものを示してくれます。
discussionでは、既報を知ることで、これまでの疾患や治療の歴史、この論文の立ち位置を明確化してくれています。
これにより、ただ知識を丸暗記するのではなく、背景を知って深めることができます。
貧乏性の僕は、「無料で読めるのに、そのへんの医学書より正確な情報が手に入るじゃん!」と得した気分になってます。笑
※ただし、注意すべき点として、discussionはその論文にとって有利なことばかり書いてる可能性があります。(救急で有名な林先生は、disucussion読まないでもいいって言うことを主張されていたみたいです)
②学会・勉強会の解像度が上がる
2つめは、「学会・勉強会の解像度が上がる」ことです。
有名なRCTをおさえておくことで、学会や講演会で話を聴いたときの理解度がぐんと上がったように感じました。というのも、「〇〇試験でこの薬は…」みたいな話を聴いたときに、結果の解釈に頭を使わなくても良くなるからです。
文脈がわかるので、その論文の次に何を言おうとしているかすぐ分かるんです。
「あー、この流れはこういう感じね、はいはい。」
みたいな心の余裕ができます。
大学受験の英語長文の問題で、わからん単語や熟語がいっぱいあると大変だけれど、知ってる単語ばっかりだからつなげるだけでなんとなく意味がわかる、というあの感じです(つたわれ…!笑)
少し古い論文でも、歴史が動いた!と言えるレジェンド級に大事なRCTは、よく引用されます。
たとえば、RASi→RENAAL試験
スピロノラクトン→RALESとかPATHWAY
SGLT2阻害薬のEMPAREG-OUTCOME試験やCANVAS試験など・・・
もしも「今から何か論文を読む習慣をつけたい、けど何から読んだらいいかわからない」という人は、ひたすらに新しい論文をやみくもに読みあさるよりは、こういった有名どころを読んでおくとコスパが良いように思います。
③適応となる患者のイメージができる
3つめは、「適応となる患者のイメージができる」です。
論文には最初のほうで「Baseline Characteristics(患者背景)」っていう欄がありますよね。
これは二次文献だとあんまり読むことができないことが多いです。割と地味な表なので、研修医や専攻医の先生は割とスルーしていることも多いかもしれませんが、実はとても大切なんです。
というのも、この試験にどのような人が組み込まれているか?を知ることができるからです。
どんなRCTも、あくまである一定の条件下での結果を示しているに過ぎません。
そのため、とても良い薬とされているものでも、患者背景を無視してしまうと、治療の効果がないどころか害になってしまうこともあります(汗)
これを、「一般化可能性(外的妥当性)」といいます。
たとえばこんな例。
まだSGLT2阻害薬が承認された直後あたりに、近くのクリニックからの「もともとeGFR30くらいだったけどeGFR15まで急性腎障害になったので、フォシーガ入れましたが治りません。ご高診おねがいします」と紹介がきたことがありました。SGLT2阻害薬は、「腎機能低下を抑制する」という強いエビデンスが出ており、もはや不動の地位を獲得していますが、たくさんの臨床試験はあくまでeGFR>20の患者を対象にした「慢性腎臓病」が適応になります。eGFR15になった急性腎障害で慌てて入れるのはナンセンスです。(入院後、速攻で薬は切られました。)
こういった症例も、患者背景をみていればありえないイベントですよね。
論文の抄読会をやっている施設は多いかと思いますが、臨床経験豊富なデキる上級医の先生方は、患者背景をかなり詳しくみていることが多いです。
Baseline Characteristicsを読んで、「この人には適応になる!」「この人は微妙かも・・・」という感覚を身につけることができるようになりたいですね。
ちなみに:論文の整理にPaperpileもおすすめ!
最後に、まとめ方について。
このnotionにまとめる作業は時間を食ってしまうので、慣れてきたら自分なりにカスタマイズしてよりシンプルな形にしてもいいかもしれません。
よくみんなが使っているアプリとして、paperpileというツールがあります。
paperpileは、論文管理ツールとして有名で、Google Chromeと連携することで、ワンクリックでまとめることができます。
有料ですが、1ヶ月で数百円という額なので、使ったことのない人は一度は試してみるのがよいかと思います。(僕も最近よく使っています。)
まとめ:一次文献に触れる習慣をつけよう!
英語論文を読む意味ってなんだろう?という点をあらためて実際に読んで考えてみました。
★intro、discussionを読むだけで勉強になる
★学会、勉強会の解像度があがる
★適応となる患者のイメージがつく
といった点を感じました。
学会発表や論文作成をする場合は嫌でもたくさん英語論文を読む必要性がありますが、それだけではなく、自分の専門分野、あるいは興味のある診療科については一次文献の論文を積極的にキャッチアップして情報収集していきたいですね。
参考になれば幸いです!
■おすすめの本
論文の読み方についての本です。
羊土社の本というと、研修医向けなイメージがあるかもしれませんが、この本は専攻医やそれ以上の年次の医師が読んでも面白いと思います。
特に、本の中で出てくる「Dr.Gotoからの一言」というコラムでは、
「レジデントの間は論文を読むよりも患者さんに向き合い、現場を知り、基本となる知識や技術を身につけるのが大事」とか、
「ランダム化試験とはいえ、追試などが行われるまであまり先走らずに結論は待ったほうがよい。」
など、かゆいところに手が届くコメントが散りばめられています。
3周くらい読んでますが、いまだに読むたびに発見がある1冊です。
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