話題の紅麹による腎障害について、まとめました。
紅麹コレステヘルプによる腎障害(2024/5 腎臓学会の中間報告第2弾より)
概要・年齢・性別
・4月末日時点で189例の登録あり
・患者は30歳代2.6%、40歳代14.2%、50歳代39.5%、60歳代32.6%、70歳以上11.1%
・女性が65.3%
時期
服用開始は38%が1年以上前(服用開始時期2023年3月以前)だが、服用期間が短期間の方(開始時期2024年1月~3月12.4%)も発症。初受診日は2023年11月以降で、ほとんどの方が12月~3月にかけて受診。
初診時の症状
初診時の主訴は倦怠感(46.8%)や食思不振(47.3%)、尿の異常(39.9%)、腎機能障害(56.4%)
腹部症状(12.8%)や体重減少(22.9%)もそこそこいる。
発熱(4.3%)や嘔気・嘔吐(4.8%)、浮腫(3.7%)、頻尿(2.4%)や体重増加(2.4%)などは比較的少ない
検査データ
主な検査データ異常としてはFanconi症候群を疑う所見が目立つ(中央値[四分位])。
・低カリウム血症(3.5 [3.0-4.0] mEq/L; 47%が3.5 mEq/L未満)
・低リン血症(2.2 [1.65-3.0] mg/dL; 64%が2.5 mg/dL未満)
・低尿酸血症(1.8 [1.4-3.18] mg/dL; 54%が2.0 mg/dL未満)
・代謝性アシドーシス(HCO3- 18.2 [15.5-22.0] mmol/L; 47%が18.0 mmol/L未満)
・尿糖陽性(62.6%が3+以上)
・eGFR低下(29.3 [17.3-42.0] mL/min/1.73m2)
・血清クレアチニン上昇(1.59 [1.17-2.57] mg/dL)
・尿蛋白増加(1.66 [0.8-2.7] g/gCr)
・尿β2MG(15550 [141-32820] ng/mL)
・尿NAG(21.7 [11.3-30.7] IU/L)
血清CK (113 [75-154] U/L)の上昇なく、(脂質異常症に対するサプリではあるが)横紋筋融解症による腎障害は否定的。
Fanconi症候群ぽい検査所見。ただし、尿蛋白がやや多い。
腎病理
・腎生検は2023年12月から2024年3月にかけ、94症例(50.8%)に実施
・尿細管間質性腎炎(43.5%)、尿細管壊死(28.3%)、尿細管障害(8.7%)が主な病変。光顕上、糸球体に病変を認めたという報告は2例あり(メサンギウム増殖性糸球体腎炎、巣状分節状糸球体硬化症)。
治療
・透析療法を必要としたのは7症例(うち5症例は離脱)。維持透析となった2例も紅麹との強い関連があるかは不明
・ステロイド治療を行ったのが約2割
・低カリウム血症に対するカリウム補充や代謝性アシドーシスに対する重曹投与など電解質異常に対する補正をされている症例が多い。
・腎機能低下は、ステロイド治療なしでも被疑剤の中止だけである程度改善する傾向あり
なお、尿所見、電解質異常については、経過をフォローされた方のうち、約3/4の症例で改善傾向を示してしていますが、改善に乏しい症例もあり、注意が必要
・アンケートでは死亡例はなし
・ステロイドを使われた症例はあるが、効果があるかは不明。(薬剤中止のみで改善するかもしれない)
・透析導入までは行かないこと多い
※最終報告は未なので、発表まちです。
引用元:「紅麹コレステヘルプに関連した腎障害に関する調査研究」アンケート調査(中間報告第2弾)
ケースレポート(慈恵医大から)
慈恵医大からの症例報告があったので、内容をまとめておきます。
・47歳女性
・既往歴:脂質異常症
・内服歴:紅麹サプリ以外なし
・現病歴:入院9ヶ月前から紅麹(0-3錠/日)を内服し始めた。内服前のベースラインの腎機能は、Cr1.09(eGFR44)だった。入院2ヶ月前までCr1.21で大きく変わらなかったが、入院5日前に嘔気を主訴に受診。採血でCr4.26まで悪化あり、入院となった。
・検査データ:血清K3.6、尿酸2.5と低K血症・低尿酸血症あり。蛋白尿、顆粒円柱、尿細管上皮細胞と尿糖あり。尿中β2MG 109677、尿中NAG16.6と上昇あり。→Fanconi症候群を示唆する所見
・腎病理:尿細管拡張、上皮剥離、扁平化、ヒアリン円柱あり。びまん性間質浸潤、尿細管炎の所見なし。→尿細管間質性腎炎ではなく急性尿細管壊死(ATN)の所見
・治療と経過:入院当初は尿細管間質性腎炎を考慮してPSL40mg/day(0.8mg/kg)の経口投与で治療開始。ただ、腎病理でATNの所見だったため、ステロイドは漸減している。入院4w後にはCr 1.72まで改善した。
・discussion:
★7ヶ月間はAKI所見がなかったことから、最近のバッチやロットに問題があったのかもしれない。実際に他の紅麹AKIの症例も同じ原料ロットの製品を使っており、シトリニン以外の腎毒性成分が含まれている可能性があるとの分析結果の報告あり。
★薬剤中止後にすみやかに尿細管障害が改善したため、ステロイドの使用に効果があったかどうかは判断難しい。
★ベースにCKDがある患者においてAKIが起きやすいのかもしれない
・腎臓学会の報告と同様にFanconi症候群を示唆する所見だったが、尿細管間質性腎炎ではなく急性尿細管壊死の所見だった。
・9ヶ月前から内服していたが、2ヶ月前まではCrの動きはほぼナシ→ここ最近のロットに問題があったかも
・PSL40mg(0.8mg/kg)で治療したが、効果があったかどうか判断は難しい
ちなみに:ATIの病理について補足
最後に、急性尿細管傷害/壊死と尿細管間質性腎炎って、響きが似ていてややこしいですよね。少し補足しておきます。(知っていたら読み飛ばしていただいてOKです)
●急性尿細管傷害/壊死(ATIまたはATN)
・病理組織学的に尿細管傷害を表す用語は、かつてATN(acute tubular necrosis)がよく使用されていたが、必ずしも壊死を伴わないためATI(acute tubular injury)を用いることが多い。(今回のケースレポートのタイトルも、ATNではなく「acute kidney tubular injury」でした。どっちでもいいかもですが・・・)
・ATIの原因は、主に①腎前性(虚血による傷害)と②腎性(腎毒性物質)による2つに分けられる。
・腎毒性物質には、①外因性(ヨード造影剤、抗菌薬、抗がん剤など)、②内因性(ヘモグロビン、ミオグロビン、尿酸など)の2つに分けられる
・病理所見は、尿細管腔内を覆う刷子縁はしばしば菲薄化・消失、管腔内側にはblebが生じ、脱落する。そのため脱落したblebや壊死した細胞、尿細管基底膜より剥離した上皮細胞が認められる。壊死の目立たない領域の尿細管は、内部の拡張を伴って上皮細胞が扁平化し、部位により備えていた形態上の特性が失われて「tubular simplification」とよばれる像を作る。周囲に間質には浮腫を伴いうことが多く、ATIの傍証となる。
・腎毒性病変は、虚血性病変と比べて広範な上皮細胞壊死、管腔内の細胞崩壊物・円柱・結晶物の貯留、細胞封入体など目立つ傾向がある。虚血性病変は細胞傷害は軽くpatchyであることが多く、部位によって病変の軽重が目立つ一方、腎毒性病変のほうが明らかな細胞傷害像をきたすことが多い。
・腎毒性病変に虚血が加わることで病変が増強・顕在化されることが多い
●組織学的には、周囲尿細管を巻き込んだ急性間質性腎炎と周囲に炎症細胞浸潤を伴ったATIの鑑別が重要。tubulitis(尿細管炎)※を伴った高度な間質の炎症細胞浸潤が主体であれば、急性間質性腎炎を考える。(薬剤性間質性腎炎は、間質への炎症細胞浸潤を主体とし、しばしば尿細管炎を近位尿細管に主として認め、ときに尿細管上皮の扁平化を伴う)
引用元:腎病理アトラスより
※尿細管炎:炎症細胞の浸潤と基底膜の断裂が典型的な像です。「腎病理読解ロジック」という本を参考にまとめた概念図がこちら
まとめ
・Fanconi症候群ぽいが、尿蛋白がやや多めかも
・紅麹そのものではなく、最近のロットの原材料に問題があったのかも
・急性尿細管間質性腎炎の報告が多いが、慈恵医大のケースレポートでの腎病理所見は、急性尿細管傷害を示唆する所見だった
・ステロイド(PSL40mg(0.8mg/kg)など)を使われた症例はあるが、効果あるかは不明で、薬剤中止のみで改善するかもしれない。透析導入までは行かないことが多い。
あくまで当ブログは自分の勉強のためのものです。正確な情報については引用元をご参照くださいね!
■関連する書籍
・紅麹による腎障害を通じて、尿細管間質病変の病理を復習する良い機会になりました。おすすめはやはり腎病理読解ロジックです。
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