もうすぐ腎臓内科ローテかあ…腎臓分野ってとっつきにくいよなあ。生理学とか苦手だし…。いい本ないかなあ。
腎臓内科って、分野が広いし、中心静脈カテーテル挿入やエコーなど手技もあるけど、なかなか必要な知識が1冊にまとまってる本って少ないよね。なにか参考になる本はないかな。
こんな人のための記事です。
腎臓分野の本は様々なものがありますが、
●腎臓の解剖生理学が難しい(尿細管のチャネル、糸球体のことなど)
●腎炎、生活習慣病、透析など、分野の中の知識の幅が広い
●手技のまとまった本がない(腎血管エコーの方法、CVの入れ方)
などの理由で、必要な知識を網羅できている本って、なかなか少ないですよね…
そんな中で、2024年9月に「無敵の腎臓内科」という本が発売になりました。(Amazonでは2024/9/26販売予定)
著者は、腎臓内科出身で、現在は膠原病内科医として活躍されている、医師9年目の谷口先生。
数多くの論文、ケースレポートを作って、腎臓分野の有名ジャーナルにも掲載歴のある医師です。
X(旧Twitter)では、TT(@TT58852391)として、学術的なポストを積極的にされておりフォロワーも6000人以上おられる、医師界隈で人気なアカウントです。
そんなTT先生が作った本書、いったいどのような1冊なのでしょうか?
今回は、
●本書の概要と特長
●推しポイント6つと注意点1つ
●どんな人にオススメか+それぞれにおすすめの使い方
を解説していきます!
それではさっそく、いってみましょう〜!
本書の概要と特長2つ
腎臓分野をかなり広く扱っている書です。
検査、症候、電解質異常、CKD、AKI、血液透析から薬剤まで、幅広い内容をカバーしています。
そのページ数は499ページ!
すごいボリュームですね。
ひとりでつくったとは思えない…!
本書の特長は、大きく2点あります。
●「解剖生理学」を重視
●使わない知識をばっさり断捨離
特長①解剖生理学を重視
最近、SNSでは最新の論文に関するポスト(ツイート)がいいねされたりリポストされやすいです。
しかし、そこで表面的に仕入れた知識は、著者の言葉を借りていえば「カップラーメン知識」つまり、付け焼き刃みたいなものです💧
もちろん、最新の動向にキャッチアップしようとするのは大事な姿勢なのですが、その知識もいつかは賞味期限が来てしまいます。
一方で、解剖生理学の知識は、長い年月をかけて作り上げてこられたもので、数年では到底変わらない大事な知識です。
そこに重点をおくことで、「何年後でも役に立つ知識・実力」を得ることができる、というのが本書の特長です。
病態生理を大事にしている姿勢は、人気の医学書である「本当に使える症候学の話をしよう」に通じるものがありますね。
特長②使わない知識をバッサリ断捨離
さて、解剖生理学は大事だよー!という話をした直後ではありますが、腎臓に関する解剖生理学といえば、どんなイメージを持たれますか?
尿細管のチャネル、糸球体の構造、ホルモンなど…
大事とはいえ、複雑で難解な印象があるかと思います💦
しかも、実臨床で使える知識なのかどうかも全くわからない…みたいな😂
しかし、本書の2つめの特長として「不要な知識を断捨離している」という点があります。
チャネルのこまかーい話はあまり出てこず、実践で役に立つ知識のみを取捨選択してまとめているんです。
また、腎臓分野でありがちな「一般的に教科書で書かれているけれどぶっちゃけいる?」みたいな曖昧な部分をスパッと「この知識はふだん使ってないよ!」って言い切ってくれるので非常にコスパがよいです。
実際に読んで感じた、推しポイント6つ
さて、次は実際に読んでみた推せるポイントを書いていきます。
①案外さくさく読める
今回の本、500ページくらいありましたが、意外にも届いて4日で1周できました。
本が届いたときは、思わず「辞書なんかコレは・・・?」みたいな分厚さで面食らったのですが、実際にページをめくっていくと、その見た目からは想像もつかないほどサクサク読み進められます。
理由は、著者の文体がやわらかく、無駄な表現が少ないからだと思います。TT先生がXで普段おこなっている自由な議論がベースになった本だからかもしれません。
(本書の中には、顔文字(^^)←こんなのも数か所入っているくらい、フランクな文章もあります。笑)
②初学者への愛を感じる
2つめは、「初学者への愛を感じる」です。
この本、初期研修医や専攻医がつまづく点への解像度が高いんです。
たとえば、FENaやFENaの考え方、低ナトリウム血症の補正、高カリウム血症の初期対応、腎血管エコー、CVの入れ方など…
誰もが気になる内容がてんこもりです。
これは、著者自身がついこの間まで研修医・専攻医だったという強みを全面に生かされてますね。
(・・・ついこの間まで研修医だったのに何故こんな辞書みたいな厚さの医学書を単著で書けるのか、ほんとうに謎!🤔(笑))
あと、ちょっとイメージしにくそうな生理学の話を、たとえ話を使って説明してくれているのも地味にありがたいポイントです。
堅苦しい文言ではなく、著者自身のことばで語られているので、理解の助けになると思いました。
③かゆいところに自分から手を伸ばしてくれる
3つめは、かゆいところに自分から手を伸ばしてくれる、という点です。
一般のガイドラインや清書、教科書では、どうしてもエビデンスベースでの話しかできません。そのため、しばしば実臨床で必要な知識と乖離があることもあり、「結局どうすんねん!」的なかゆいところに手がとどかないことが多いです。
そんな中で、この本は「実際どうなの?」みたいなことズバズバ切り込んでくれています。たとえばこんなこと↓
●低ナトリウム血症のAdrogue-Madias式って毎回使うべきか?
●ARBってどう使い分けてる?AKIのとき中止する?しない?
●生理中の尿蛋白って、意義ある?
●慢性の無症候性血尿って腎生検どうしてる?
●高カリウム血症の治療っていろいろあるけど、β吸入って使えるか?
●CVいれるとき、エコーどこ置いてる?針にシリンジつける?
このスタンスは、長澤先生の本(※)に似ていますね。(長澤先生の本も、ECUMの意義やフォシーガジャディアンスどっち使うか問題などぐいぐい切り込んでいます)
※こちらの記事で紹介しています。
④臨場感がすごい
この本、臨場感がすごいです。
専攻医までに知っておきたいこと+αが、実用的かつ網羅的にのっています。
「実践で使える知識」を重視しているだけあって、若手医師、特に内科専攻医には本当に重宝すると思います。
ただの検査・治療の羅列ではなく、救急外来などですぐに検査結果がでそろわない中でどうすればいいか?について、実践的な対応についても載っています。
また、修行中の若手医師だけでなく、産休・育休中など、事情があってしばらく実臨床から離れている方も、この本は臨床の勘を思い出したり知識をアップデートできたりする1冊だと思います。
この本とあわせてチャラくな医(@Dr_play_boy_)先生のスペース(ラジオ)を聞くとか、長澤先生のラジオ聞くとかも良いかもしれませんね。
⑤引用文献が多い
一般的なマニュアル本よりも圧倒的に引用文献が多いです。
わりと教科書に書いてあるレベルの知識って、もと文献が載っていないことが多いです。
この本ではそういった細かい点にも引用文献を持ってきて、「どんな患者に適応になるか」などみんなが知りたい内容をまとめてくれています。
この引用文献をきちんと探して読むって、医学のブログ記事やケースレポートを書くときにわかりますがめっちゃめんどくさいんです…どれだけ作業が大変だったのか、想像してもしきれません…
普段から学術的な活動をされているだけあって、論文の読み解き方も非常にスマートだなあと、感じました。トップジャーナルに掲載歴のある腎臓内科医・膠原病内科医としてのプライドを感じました。
文献が多いので、研修医レポートやJ-OSLERはもちろん、腎臓・透析専門医のレポートにも役に立つと思います!
⑥熱量がすごい
さいごに、文章の熱量がすごいです。
医学書を読んでいると、結論が「患者の病態に応じて検討する」みたいなふわっっとした文章、よくあるじゃないですか。
それっぽく書いて、それっぽく終わらせてる!みたいな。
この本は、研修医や専攻医の必須な知識・手技を、絶対に理解できる・実践できるように伝えるという気概を感じます。
特に、中心静脈カテーテル(CV)の入れ方の章は本当に感動しました。落とし穴から気をつけるべきポイント、ちょっと知っておくと役に立つコツまで、約40ページにわたって手とり足取り教えてくれます。動画もQRコードでついているので、わかりやすい。
また、contraversial(賛否両論ある)分野についてコレでもか!というレベルでぐいぐいと追求してるので、上級者(指導医クラス)の先生もかなり満足できると思います。
本書を読むうえでの注意点
ここまでは、この本の推しポイントを述べてきました。
1点だけ取り扱いの上での注意点があります。
それは、「初学者はいきなり読み通そうとしないこと」
TT先生自身もスペースで話していましたが、結構な分量があるため、初学者がすべてを読もうと思うと結構たいへんだと思います。
そこで心が折れてしまって積読になるのはもったいない!
そのためには、なるべくつまみ食いスタイルで読むようにしましょう。
この本では章ごとに難易度を記載する、という方法をとっています。
具体的には、難易度別に★、★★、★★★の3段階にわかれています。
これを参考に、まずは必要そうな部分を「つまみ食い」していくことができます。
難易度別に記載されている本はコントラストをつけながら読み進められるのでよいですよね。★の数で分類されているのは、後藤先生の「僕らはまだ、臨床研究論文の本当の読み方を知らない。」という医学書に似ています。
どんな人へオススメ?使い方は?
最後に、本書はどんな人へオススメか?についてすこし触れておきます
ぶっちゃけ内科医全般にオススメできますが、それだと参考にならないかもなので、特に読むとレベルアップにつながりそう!という方を以下に挙げます。
●腎臓分野をよく知らない研修医・専攻医・内科医
●腎臓の指導医がいない/少ない地域で働く腎臓内科医
●腎臓内科のない病院で働いている内科医師
①腎臓分野をよく知らない研修医・専攻医・内科医
腎臓分野の全貌がわからない…という初学者や苦手意識を持っている方、安心してください。
★1マークのところをすべて読むだけで、腎臓分野の基礎知識をだいぶカバーできるようになります。
AKIや電解質異常など、救急外来ですぐに役に立つ内容も満載です。
オススメの使い方としては、前述の通り、全部を通して読もうとするのではなく、つまみ食いしていくこと。
全部読んじゃおう!と気負ってもなかなか時間と労力がかかるボリュームですしね。興味があることや、疑問が生じた内容について、つまみ食いしつつ調べながら気長にやっていきましょう。
②腎臓の指導医がいないor少ない地域で働く腎臓内科医
腎臓指導医が近場にいない、あるいは少ない病院の腎臓内科医にもオススメです。
大学病院などとは違い、地方の病院では一人で腎臓内科をしている先生もいますよね。
また、腎臓内科医が複数いても、指導医がちょっと頼りない…みたいな環境も少なくないでしょう。
そんな環境で疑問点を解消したい!知識を固めたい!というときに使えそうです。
使い方としては、この本はさきほど述べた通り、図や表が豊富かつ、文体がやさしいので、思った以上に読み進めやすいので、腎臓内科として働いている先生であれば、一気に読み進めてもよいと思います(^^)
③腎臓内科のいない病院で働いている内科医師
最後は、腎臓内科医のいない病院で働いている内科の先生です。
●クリニック
●慢性期病院
●小さめの救急病院
など、腎臓内科の専門医がいない病院では、腎臓内科にコンサルトする=他の病院に患者を振る必要がある という環境の方もいますよね。
そんなときにこの本を参照とすることで、多くの疑問に対する答えがみつかるはずです。
使い方としては、
・★1の部分は通読
・それ以外の部分は疑問がある際にチェック
という感じがよいと思います!
まとめ:みんなで「無敵」になろう
以上、たぶん最速(?)の本書のレビューでした。
この本の特長は以下の2点です。
①解剖生理学を重視している
②無駄な部分を可能な限りけずっている
僕が感じた推せるポイントは以下の6点です。
①案外さくさく読み進められる
②初学者への愛を感じる
③かゆいところに自ら手をのばしてくれる
④臨場感がすごい
⑤引用文献が多い
⑥熱量がすごい
注意点としては、初学者はいきなり通読しようとしないことです。
そして、おすすめの読者は
●腎臓分野をよく知らない研修医・専攻医・内科医
●腎臓の指導医がいない/少ない地域で働く腎臓内科医
●腎臓内科のない病院で働いている内科医師
です。
ぜひぜひ皆さん手にとってみてください♪
以上、参考になったら幸いです!
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