内科専攻医になった!透析についてどの本で勉強しようか悩むなあ
専攻医になって透析バイトに行くことになったけど、1冊買っておくとしたらどの本がいいかなあ
こんな人に向けた記事です。
腎臓内科になって数年間仕事をしていたらある程度透析のやり方は分かってきますが、それでも判断に悩むことは多いです。
特に透析分野は、エビデンスが少ない分野だからこそ、「何がセオリーなのか」というエッセンスは本でしっかり学ぶことが大切だと感じます。
今回の記事では、腎臓内科専攻医として3年間仕事をしている立場で、長年活躍している名著から最新の1冊まで、厳選して紹介していこうと思います。
これらの本をしっかり読み込めば、透析治療の疑問はおおむね解決するはず!
・透析のことを勉強したい腎臓内科専攻医
・透析バイトを控えている内科専攻医・他科の先生
・透析に携わっている看護師さん、臨床工学技士さん、薬剤師さん
それでは、いってみましょう!
①レジデントのための血液透析患者マネジメント 第2版
一番人気の透析入門書です。
- 薄いからすぐに読み切れる。
- 値段は3000円と手頃
- シンプルだけど最低限の知識はすべて詰まっている
- 基本事項からこまかな合併症まで、カバーしている範囲は意外と広い
- 腎臓内科はもちろん、それ以外の診療科の先生やコメディカルの方にもおすすめ!
腎臓内科の先生なら、100人いたら99人はこの本を目にしたことがあるのではないでしょうか。
僕が透析の「と」の字も分からないような初心者だった専攻医1年目のときに、まず始めに読んだ1冊はこれでした。
基礎知識はもちろん、第3章の「維持血液透析患者のマネジメント」ではかゆみや便秘などあるあるな細かい合併症まで触れていますし、他の章ではAKIへのアプローチやアフェレーシスの使い分けについてまで触れています。
それぞれ書いている分量は少なめですが、要点を押さえている良書です。
初心者からベテランまで、長く使える1冊ですね。
注意点としては、ちょっと古いこと。第2版が出たのが2014年なので、もうすぐ10年になります。
そのため、ロケルマ、リオナ、ピートル、ダーブロック、ウパシタなどなど、最近の薬については言及されていないので注意です。
(ただし、最新の薬についての勉強は、この本を読んで基礎的なことを学んでからでも遅くはないと思います。)
ツイッターでアンケートを取ってみましたが、案の定1番人気の1冊でした。
腎臓内科の先生に質問です!腎内の専攻医が最初に透析のことを学ぶための本でオススメなものを教えてください📚
— おちば@腎臓内科専攻医 (@autumnleaveskid) March 28, 2023
最初の1冊で迷っている方はぜひどうぞ!
②この局面にこの一手!Dr.長澤直伝!腎臓病 血液透析の定跡
透析について、基礎知識からトピックまでわかりやすく楽しく学べる最新の1冊!(2023年現在)
- 対話形式だから読みすすめやすいし面白い
- 長澤先生の独自の図が、シンプルでわかりやすい
- 基本的な知識についても、登場人物たちの発言を通じて指導医や専攻医・研修医など様々な目線で学べる
- 透析界隈で都市伝説的な感じで言われていること(エビデンスがない部分)についても結構切り込んでいる
- ぶっちゃけあんまり考える必要がないところに関してはきちんとぶっちゃけてくれているし、かゆいところを「あえてかきにいってくれている」ような良書
2冊目は、2023年現在、最新の1冊です。
この本を書かれている長澤先生は、他にも様々な腎臓関連のわかりやすさMaxの医学書を出されており、僕自身「心の指導医」と勝手に思って一方的に慕っています。
(余談ですが、先日、Twitterで相互フォローいただき、めちゃめちゃハッピーでした!←)
「定跡」シリーズは他にも2冊あって、
●腎臓病 薬物療法の使い方
●腎臓病 患者マネジメント
この本が3冊目にして最終巻になります。
(3冊通して登場人物が一緒でストーリー展開がありますが、別分野なので1冊だけ途中から読んでも十分ついていけます。)
この本は、架空の研修医(古賀先生)と専攻医(里見先生)、そして長澤先生の会話形式で進んでいきます。
この研修医の「ザ初心者」な質問がいっぱい出てくるんですが、どの質問も、すごーく気持ちがわかる誰もが思うような疑問ばかりです。
「ダイアライザーって何を選べばいいんですか?」
「リン吸着薬ってどれ使えば良いんですか?」
などなど、基本的な質問をして、専攻医(めちゃめちゃ優秀)と長澤先生が答えを返してくれます。
里見先生という専攻医の先生の発言が正しくて勉強になるのですが、
この本の面白いところは、指導医の長澤先生が「正しい知識やエビデンスを知った上で、実戦ではどこまでぶっちゃけられるか」についても結構たくさん触れてくれているところだと思います。
「血流量を上げすぎるとシャント不全とかマイクロバブルが出てしまうって本当?」
「出血傾向のある患者にぶっちゃけ低分子ヘパリンはどこまで意味があるのか?」
「キドミンなど透析中の栄養投与はどこまで意味があるのか」
など、エビデンスがあるのかないのか、なんとも言えない微妙な分野についてもキチンと切り込んでくれています。
こういった微妙な分野は、本に書いてあっても一般論しか書かれていないことが多く、専攻医の立場だと各自の指導医から耳学問的に学ぶことが多いと思います。
「これについては、気にするべき」「これについては、細かいことは気にしなくてOK」
と、耳学問の「答え合わせ」ができるのは、非常に参考になる気がします。
キッチリすべきところはもちろんキッチリしながらも、「膜の種類はどれでもOK」「難しいこと考えずにQBは上げろ」などぶっちゃけるところはぶっちゃけてくれているのは非常に参考になります。
(もちろん、各大学の医局や病院のやり方があると思うので、最終的にはそれぞれの施設でコンセンサスを得た方法でやる必要があると思いますが)
最近の透析の本の中では一番アツい1冊だと思いますね。一番最新ですし。
ちなみにですが、もう一冊長澤先生の本で「誰も教えてくれなかった血液透析の進めかた教えます」というものもあります。
どちらも透析についての本ですが、どちらを買うか悩んだら、やっぱり「定跡」をすすめます。一番最新ですし。
長澤先生とCOIあるんかっていうくらい推してくるやん
この本の短所は、
①対話形式であるため、情報量の密度がすこし、薄め?(それでも濃いめですが)
②雑談がやや多め
の2点でしょう。
(他の長澤先生の「定跡」シリーズもそうですが)漫画や音楽、本など様々な長澤先生の趣味が結構沢山出てきます。笑
「勉強だけしたい!」という真面目な方には、ちょっと邪魔に感じてしまう人もいるかも・・・
まあ、音楽大好きな僕個人的にはノンストレス、というかむしろ飽きずに読むための最高のアクセントでしたが。笑
あと、2つ目の短所としては長澤先生の個人的な主義主張の色が濃い目な気がします。
そのため、ガイドラインのように絶対遵守!というよりは「指導医の一人」的なノリで参考にさせてもらうのが良いかと。
(個人的には大賛成な意見が多数なので、いっぱい日常診療に取り入れさせてもらっていますが🙌)
※この1冊を読んで全然イケるわ!と感じた方は、是非他の2冊の定跡シリーズもお読みください。
総合診療にも興味のある僕個人的には「マネジメントの定跡」は特にめちゃくちゃ参考になりました。
③〜至適透析を理解する〜 血液透析処方ロジック
他の入門書を読んだ上で、より原理をちゃんと知りたい人向けの1冊
- 原理や病態について親切に解説している
- 「ロジック」という名前にふさわしい理論的な内容と参考文献の多さ
- 引用文献はめっちゃ多いので、レポート作成に使えそう
- 実際に回路を扱う臨床工学技士さんには、一番オススメかも
- コラム(「私の透析研修」)が意外と印象に残るエピソードが多い
3冊目は、血液透析処方ロジック。
「レジデントのための血液透析マネジメント」など入門書を読んだ後、なんとなく頭の中に入っている透析方法について、具体的なメカニズム・原理を深めることができる1冊です。
HD,HDF、ECUMなどの治療の使い分けについてはもちろん、QBやQDによる違い、ドライウェイトの具体的な決め方などについて細かくまとめてくれています。
結構ひとつひとつの知識について細やかに情報が載っており、きちんと文献の内容に基づいて「こういったデータがあるから、こうします」という根拠が記載されているのがありがたいです。
ざっくりとしたイメージで言えば、
②の「定跡」・・・文系寄り
③の「ロジック」・・・理系寄り
な感じがします。(完全に主観ですが・・・)
具体的なデータをもとに作られたグラフが多数出てくるので、ひとめでイメージが湧きやすいです。
また、地味に文献が豊富なので、内科専門医、腎臓専門医、透析専門医などのレポートを作る際にも非常に役に立ちます。
また、感動したポイントとしては、他の透析の本では割と雑に扱われがちな「ダイアライザー(膜)」について、基礎知識として1章、病態に応じた選択で1章と、合計2章も使って書かれています。
ダイアライザーについてここまでの分量の記載がある本は他になかなかないので、腎臓内科医だけでなく学び始めの臨床工学技士さんにも向いている1冊だと感じます。
この本のデメリットとしては、やや解説が詳しすぎて字が多めなこと。
初心者は、最初の1周目が結構とっつきにくい感じがあるかもしれません
僕も最初の一周目はダイアライザーのとこらへんで挫折しました。
(それでも清書と比べたら圧倒的に読みやすいですが・・・)
いきなり1冊目として読むのではなく、①か②を読んだ上で読む、というイメージのほうが良いと思います。
まとめ:透析については、まずはこの3冊を!
いろいろお話してきましたが、透析についての勉強は本だけで身につけるのは難しく、実戦を通して経験するのが一番な気がします。
というか、透析以外についてもそうなんですが、透析分野は特に、「エビデンスがー」というエビデンス至上主義ではなく、泥臭い実臨床で「ぶっちゃけどうなんやろか…」と悩みながら診療することだらけです。
しかし、悩んだ時に考える材料として、上記の3冊をきちんと読み込んでおくと引き出しとして非常に役に立つと思います。
ちなみに、オススメとしては
「レジデントのための」→「ロジック」→「定跡」
の順番がいいかなと思います。(自分が出会ったのもこの順)
また、1冊を1周読んで満足ではなく、それぞれ少なくとも3-4周読むくらいの気概でいたほうが良いと思います。
長澤先生いわく、1冊につき7周読めば、必ず血肉となって自分を助けてくれるといいます。
僕はまだ7周も読めていないですが、頑張って読み込みます…!
ツイッターフォローしてもらってますし…(←どんだけ嬉しいんや!)
みなさんの参考になれば嬉しいです!
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