透析患者さんが手術目的に入院になって担当することになった。一般的な患者さんと違って何か注意すべきことややるべきことはあるんだろうか。
消化器内科に、透析患者さんが消化管出血で入院になった。透析のことよく分からないな。
こんな人のための記事です。
透析患者さんは、併存疾患が多いため腎臓内科以外で入院でお世話になることが非常に多いですよね。
●冠動脈疾患があって循環器内科
●消化管出血で消化器内科
●転倒して整形外科
●脳梗塞・出血で脳神経内科/脳神経外科 などなど…
ただ、初期研修医のときは、透析患者さんを担当したときに何を気をつけたらいいかイマイチ分からないことが多いかと思います。
また、入院管理が他の一般の患者さんと違う点が多いので、専攻医、上級医になっても困ることが多いですよね。
今回の記事ではそんな方のために、他科の先生に最低限知っておいてほしい、透析患者が入院したときのちょっとしたポイントをお伝えします。
決して難しいことでなく、なんなら研修医が明日から実戦できる内容ですが、この記事の内容をちゃんと行ってくださっているだけで、併診している腎臓内科医が泣いて喜びます。
ぜひ最後までお付きあいください!
・腎臓内科以外の診療科へローテ中、透析患者を担当した研修医
・透析患者の治療を担当することになった他科の専攻医
・透析のことを研修医に講義することになったけど、何を話そうか悩んでいる腎臓内科専攻医
※ここでは、透析患者=血液透析患者さんとして記載しています。腹膜透析患者さんの対応はまた異なりますのでご注意を!
①局所麻酔テープ(リドカインテープ、ペンレス®など)を処方
まず1つめは、「局所麻酔テープ(ペンレス、リドカインテープなど)を処方する」です。
(当たり前だろ、と言う人は読み飛ばしていただいて大丈夫です🙇♂️)
血液透析患者さんは、多くがシャントという血管を作ったり人工血管を入れたりしています。
(一部、カテーテルを使っている患者さんはいますが、稀です。)
透析で毎回穿刺するのですが、針の太さは15-18Gと、一般的な採血や点滴で使う20-22Gと比較してめちゃくちゃ太いです。
そのため、痛み止めのテープを透析日の朝に事前につけます。
もし主科で処方が出ていなければ、急いで腎臓内科が処方するってこともちょくちょくありますが、タイミング間に合わないこともしばしばあります。
もちろん、貼り忘れていても透析はできますが、患者さんのQOLに直結することなので、忘れないようにしておいてほしいです・・・!
なお、局所麻酔は、ペンレス、リドカインテープ、キシロカインテープなどのテープの他に、エムラクリームというクリーム状のものを使っている患者さんもいますし、場合によっては局所麻酔を使っていない患者さんもいます。
何を使っているかは、入院時に患者さんに確認してもらえたら嬉しいです。
局所麻酔テープやクリームの使用を確認し、事前に処方を!
②採血検査は、透析日でオーダーを
2つめとして、採血検査を透析日に入れておいてほしいです。
なぜかと言いますと、「透析のついでに取れるから」です。
透析日であれば、透析の際に血液検査を採取できるので、血管を無駄に刺す必要がなくなります。
(早朝に取らないといけないホルモン検査や、輸血の可能性があって早めにフォローが必要な場合など)特別な理由がないのであれば、透析日にお願いします。
透析患者の血管はいざとなった時にシャントを再造設したりする可能性があり、とても重要なので、できれば温存しておいてほしいです。
また、採血の頻度についてですが、腎臓内科的には、透析患者さんのデータは電解質や貧血などの推移チェックのため、入院中であれば少なくとも週に1回くらいは見たいです。
なので、主科の先生がそのくらいの頻度で、採血を入れてくださると非常に助かります。
採血はできるだけ透析日に!また、何もなくても最低でも週1回くらいオーダーをしてくれると嬉しいです!
③食事の種類に注意を!
次は、食事についてです。
食事は、塩分・カリウム制限を!
透析患者さんは、塩分制限(6g以下)とカリウム制限(2000mg以下)をルーチンで入れてほしいです。
以下に、透析患者の食事療法の基準を載せますので、参考にしてください。
ちなみに、タンパク制限はしなくてOKです。
入院食なら基本的に多すぎることはないですし、制限しすぎにより透析で失ってしまうので痩せてしまいます。
以前は厳しいタンパク制限がされることが多かった(特に保存期の方)ですが、最近はフレイル・サルコペニアなどの原因となりうるため、あまり制限はしすぎないようにしようっていうのがトレンドです
病院によっては「透析食」っていう食種を準備してくれていることがありますので、迷ったらコレにしておけば安心ですね。
透析患者用の食事に変えてくれているだけで腎臓内科医的にはめっちゃありがたいです。
絶食や食上げをしていく場合は連絡を!
消化管疾患(消化管出血や胆管炎など)で絶食になっている患者さんを担当することがあると思います。
そういった患者さんは、再出血の有無などを確認しながら食事を少しづつ上げていく(三分粥→五分粥→全粥 など)ことになります。
「いつまで絶食の予定なのか」「どんなスケジュールで食上げを進めていくか」などについての情報は、腎臓内科医に共有しておいてくれると非常に助かります。
直接言うのが面倒ならカルテにスケジュールを書くでもOKです。
絶食中だと思って透析管理していたら、食事がいつの間にか始まっていて、みずみずしいご飯(水分多め)によって体重の増えがえげつないことになっている…みたいな事件は頻発しています。
例えるなら、糖尿病で管理を依頼している糖尿病内科の先生に食事内容を変更時に一報いれる(いれますよね?)のと同じようなノリで、腎臓内科に食事の変更をお伝えいただけると非常に嬉しいです…!
例外)カリウム制限は、必須でないこともある
食事摂取量が少なすぎるなど、何らかの理由でカリウムが非常に低い人は、K制限食をかけなくてもOKなことがあります。
食事が取れない人に過度な制限を入れると、カリウムどころか必要な栄養が何もかも足りないみたいな事態になりかねません。
食事がなかなか進まない患者さんの場合は、あえて普通食(制限なし)にしている方もいるくらいです。
食種をどうするか迷ったときは、遠慮なく腎臓内科に一言相談してください!
食事は透析患者向けにK制限・塩分制限のあるものにしておく。ただし例外もある。食事変更するときは、腎臓内科へ一言かけてくれると嬉しいです。
④水分制限をかける(ただし、闇雲にかけないで!)
つぎは、水分制限についてです。
③での内容と若干かぶりますが、水分制限は透析患者で重要です。
体格にもよりますが、1000ml/dayとかで制限されていることが多いです。
ただし注意点としては、杓子定規に1日1Lなど制限をかけるのではなく、「普段制限している量に合わせる」ということが大事です。
もしも、日常的に飲水制限をしていないのであれば、病棟指示は「飲水測定のみ」でOKで、制限はいりません。
透析歴がまだ浅い人であれば自尿が多い患者さんもいます。
たとえば、透析学会誌では、4-5年で9割方の患者さんが尿量200ml以下になるという報告があります。
透析患者さんだから・・・と言って入院中に軽いノリで飲水制限をかけてしまうと本人のQOLを下げてしまいますし、病棟の看護師さんの負担も増えてしまいます。
迷ったら、本人へ「普段どのくらい制限かけてます?」と確認するのが手っ取り早いです。
水分制限は、本人に確認してから普段と同様の量で制限をかける。(病態が複雑、認知症で確認できないならば腎臓内科と相談を。)
⑤入院期間をカルテに記載する ←重要!
5つめは、「入院期間がどのくらいになるのかをカルテに記載する」です。
腎臓内科(+透析室スタッフ)は、透析のスケジュールを組む兼ね合いもあるので、どのくらいの期間入院するのかを、できるだけ早く知りたいと思っています。
疾患によってはどのくらいの期間かイメージはできますが、主治医の先生の頭の中を覗くことはできませんし🤔
もし可能であれば、カルテに「入院期間は●w程度の予定、〇〇の結果によっては●w程度延長する可能性もある」など記載してくれていると、腎臓内科医としてはめちゃくちゃありがたいです・・・。
透析患者さんを持っている先生は、退院が決まったら腎臓内科に連絡してくださる先生は多いです。(お忙しいためか、それさえも連絡してくれない先生もたまにおられますが・・・涙)
しかし、できれば退院が決まる前に、目安を教えてもらえるとありがたいです。
透析条件を調整したいな・・・と思った矢先に突然退院が決まったりするとアワアワすることがあります。カルテに記載するのが面倒であれば直接連絡をいただいてもOKです。
おおよその入院期間をカルテに記載、あるいは透析医に連絡を!
⑥「お薬どうします?」の一言を!
6つ目は、「お薬をどうします?」と一言かけてほしいです。
透析患者さんは往々にして薬の量が多いです。
多すぎて、カルテをスクロールしないと内服薬を全部見きれなかったりすることもありますよね(T_T)
降圧薬、リン吸着薬、さらには冠動脈疾患に対する硝酸薬、PCI後やPAD、脳梗塞に対しての抗血小板薬などなど…
これらの薬については、専門の先生であれば調整いただいても構いませんが、できれば主科で処方/調整する前に「前医での処方、どうしましょうか?変更(または継続)しようと思っているが、いいですかね?」の一言を当科にかけてもらえると嬉しいです。
というのも、血圧が高くても、ドライウェイト(透析のときの目標体重)を落とすだけで解決することもあります。
降圧薬を増やしてしまうと逆に透析中の血圧低下をきたしてしまう可能性があります。
また、逆に血圧が低すぎて降圧薬を切りたいと思っても、それが実は心保護目的に入っている薬の可能性もあります。
(RAS阻害薬やベータ遮断薬などですね)
こちらもDWを調整するだけで良い感じにコントロールできることもしばしばあります。
透析患者の降圧薬、吸着薬などの調整については基本的には腎臓内科医に任していただいてOKなので、いつでもお声掛けください。
前医での薬をDOしたり変更したりする前に、処方内容について一度腎臓内科医に相談を。
⑦(術後や、出血リスクが高い場合)透析時の抗凝固薬をいつナファモスタットからヘパリンに戻すか伝える
7つめは、抗凝固薬をナファモスタット→ヘパリンに戻すタイミングを主治医に確認の上で腎臓内科医に伝えてほしいです。
外科での手術をした人や、貧血・出血傾向がある人の場合は、抗凝固薬をヘパリン→ナファモスタット(フサン®)に変更して透析を行う施設もあります。
ナファモスタットは、アレルギーが出やすいといわれています。また、若干ヘパリンよりも金額が高いです。
一般のクリニックでは置いていないこともあり、できれば退院の前には、もともとのヘパリン(あるいは低分子ヘパリンなど)で透析をして問題がないことを確認しておきたいです。
そのため、手術や処置をした患者さんや、出血リスクが高い患者さんで透析時の抗凝固薬を変更する場合は、だいたいいつ頃から抗凝固薬をもとのヘパリンに戻してOKなのかを教えてもらえるとありがたいです。
(明確な基準はないので、出血リスクが低くなったタイミングで結構です。)
※ちなみにナファモスタットにすることで再出血を予防できるエビデンスは実はあんまりないです。
中には術後の患者でも抗凝固薬を変更しない病院もあるようですので、その場合は病院の慣習に従ってください。
ナファモスタットに変更している場合は、いつ頃抗凝固薬をヘパリンに戻せそうか連絡を!
まとめ:透析患者が入院したら、やってほしいこと7選
いかがだったでしょうか?
一つ一つの内容は簡単と感じる方も多いかもしれませんが、漏れなくやってもらえる先生は意外と少ないです…
上記の内容をきちんとやっていただくだけで、腎臓内科としては非常に助かります。
研修医の先生も上の7つのポイントを押さえた上で、主科と腎臓内科の間でコミュニケーションを取ってもらえると非常にありがたい限りです!
■おすすめの本
・もしも他科に進む予定だったとしても、この本を1冊持っておいて損はないと思います。
薄めの1冊ですが、透析のエッセンスがまとまっています。
■おすすめの記事
・腎臓内科のローテを考えている方への記事も作ってみました。
・透析に関して、専攻医レベルの方へオススメ書籍をまとめてみました。
・腎臓内科は良いぞ!という記事も書いてます。研修医の方、ぜひどうぞ!
コメント